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  留学記

2014年夏から2018年春までトロント大学胸部外科に留学させていただきました。2年半にわたりリサーチフェローとして研究生活を経験し、その後1年間トロント大学総合病院における肺移植クリニカルフェローとして外科修練を受けましたので報告します。

リサーチフェローの期間はDr.Keshavjee lab にて、@ラット肺移植モデルを用いた肺移植後虚血再灌流肺傷害に対する細胞死を標的とした新規治療法の検索、AEVLP(Ex-vivo lung perfusion)の臨床検体を用いたバイオマーカー検索、という2つのプロジェクトに携わりました。当教室では小動物/大動物実験による基礎研究のみならず、移植前後の肺組織やEVLP灌流液などの臨床検体も多数保管されており、アイデアがあれば臨床データおよびサンプルにアクセスできる素晴らしい環境が整っています。周囲からの多大なる協力のもと、上記のプロジェクトの結果を国際学会ならびに学会誌にて報告する機会を得ました。

トロント大学胸部外科の肺移植プログラムは年間200例の肺移植を施行しているHigh volume center です。その原動力となるクリニカルフェローのトレーニングにも力をいれており、フェローはドナー肺評価・摘出、レシピエント手術・術後管理と系統だった修練を受けることができます。常時4-5人の肺移植専属フェローが24時間365日体制で臨床業務に従事しており、質量ともに充実した修練生活を過ごすことができました。

ドナー肺手術は日本と異なり、クリニカルフェロー1人あるいは2人でドナー病院に向かいます。見知らぬ病院で行うドナー肺摘出手術は、当初とても緊張しましたが、数をこなしているうち徐々に慣れることができました。レシピエント手術は基本的にスタッフとフェローの二人で行います。大半の症例が両肺移植ですので、片肺をスタッフ、もう片肺をフェローがimplantします。つまり1症例で術者と前立ちの両方を経験できますので、非常に多くの経験を積むことが出来ます。

スタッフはみな指導熱心で、手つきがおぼつかず、また英語もネイティブではない私に対して、非常に辛抱強く指導してくれました。1年間で、ドナー手術82例、レシピエント手術68例(うち54例で片肺の気管支・肺動脈・肺静脈の吻合)を経験させていただきました。修練の終盤は、スタッフの手洗い無しでフェロー二人だけで両肺移植を完遂する、という今後体験することがないであろう状況も度々経験することができました。

このほかにも当フェローシップはECLSフェローも兼任しており、肺移植前の重症呼吸不全患者や院内のARDS患者のECLS導入および管理にも携わることができます。いずれも突発的で緊急性を要する症例であり、大変ではありますが非常に濃密かつ幅広い経験を積むことができます。” Bridge to transplant ” 症例をふくめて、呼吸器外科医がECLSに関わることが多くなると予想されるため、ECLSフェローとしての経験を今後の診療にぜひ役立てたいと思います。

 最後に、渡航中も激励の言葉をかけてくださった呼吸器外科の先生方、海外生活を献身的にサポートしてくれた家族、と多くの方々への感謝をこめてこの報告を締めたいと思います。

狩野 孝

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