海外留学

海外留学について-
 当教室では、これまで多くの医師が基礎研究を目的に海外での研鑽を積んできました。世界最先端の研究環境で得た経験を日本に持ち帰り、自身の研究として発展させている例も少なくありません。
 また、臨床留学を通じて海外で手術やチーム医療を経験し、現地で活躍を続ける医師もいます。それぞれの志向に応じて、教室として全力でサポートしています。
 国際的な視野を持ち、未来の医療を切り拓く人材の育成を、私たちは大切にしています。

当科の海外留学・在籍実績マップ

当科の海外留学・在籍実績マップ

2010年卒, 留学先: University of Toronto

 私は現在Latner Thoracic Research Laboratoriesで研究を行っています。当該施設の誇るex vivo lung perfusion(以下EVLP)は、取り出したドナー肺を体外で換気・潅流することで、移植に使用できるか迷うようなマージナル症例の生理機能を手術前に評価する技術です。当施設では既に15年以上の使用経験があり、これまでに通算1000症例以上のclinical EVLPが行われています。私は、EVLPの間に非ウィルスベクターを用いてドナー肺にCRISPRを導入し、遺伝子編集を介してIL-10をupregulateすることで、移植に伴うレシピエントの拒絶反応を軽減させることを目指し、日々実験を重ねています。

数ある当研究室の特徴の中でも、特に次の3点が特筆すべき点かと思います:
1. 豊富な研究資金
 大動物(ブタやヒト)のEVLP実験は、1回あたり(N=1を得るために)数百万円単位の費用が必要になります。EVLPは、豊富な研究費を獲得している当研究室ならではの実験モデルと言えます。
2.世界一の症例数
 トロントは年間200例以上の肺移植があり、その症例数は他施設の追随を許しません。それら臨床症例の検体・データベースがあり、必要に応じて研究に用いることができます。また、実際のヒト検体(移植に使えなかったdeclined lungや、レシピエントから摘出したexplanted lung)を多数用いた移植研究が行える点も、当研究室ならではの強みかと思います。
3.多彩なコラボレーション
 こちらでは共同研究が盛んであり、様々な研究室とコラボレーションが行われています。提携相手も北米の第一人者ばかりであり、常にエキスパートからのアドバイスを仰ぐことができます。また、企業とのコラボレーションもあり、ヒトEVLPモデルで前臨床薬の評価を手伝っています。

 以上のように、“ここでしかできない研究”を実施できることが、留学の魅力の1つかと思います。留学に理解を示し、このような機会を得るために全面的に協力して下さった新谷教授をはじめとする医局の先生方に、この場を借りて厚く感謝を申し上げます。

2014年卒, 留学先: Northwestern University Feinberg School of Medicine

 私は2024年4月からアメリカ中西部に位置するNorthwestern Universityに留学し、肺移植に関する研究を行っています。エバンストンにあるメインキャンパスとは別に、医学部のキャンパスは大都市シカゴの中心部にあり、同じくシカゴ中心部の病院群と連携して研究・臨床を進めています。世界有数の大都市ということもあって、学内外に多様な人材が集い、国際色豊かな環境で日々刺激を受けながら過ごしています。
 私が所属している呼吸器外科の研究室では、肺移植前後の病態解析を中心に、ドナー肺の品質向上をめざしたEx-Vivo Lung Perfusionの改良、免疫学的拒絶反応のメカニズム解明、組織再生医療を応用した新しい治療オプションなど、多角的なプロジェクトが進行しています。私自身は慢性拒絶反応のモデルを用いた基礎研究や臨床検体の分子解析を担当しており、移植後の肺障害発生のメカニズム解明と予防策の開発を目指しています。
 当科は2024年全米一位の肺移植実施施設であり、私もドナー手術に参加しています。ドナー肺の選定からEVLPの準備、臓器搬送に至るまで、臨床現場のダイナミックさを実感できる機会があるのは大変貴重です。また、ドナー施設までプライベートジェットに乗るなど海外ならではの臨床を肌で感じることで、研究の意義や今後の展望をより明確にすることができ、日々のモチベーションを保つ大きな原動力になっています。
 シカゴは「風の街(Windy City)」と呼ばれるほど強い風が吹くことで有名ですが、春から夏にかけては気候が穏やかで、美しいミシガン湖沿いの景観を楽しめます。大学周辺にはミレニアム・パークや美術館・博物館など見どころが多く、研究の合間にリフレッシュできる環境です。また、大学周辺には世界各国のレストランやスーパーがあり、生活には不自由を感じません。
 留学生活は忙しさと刺激にあふれていますが、日々新しい知識や技術に触れ、視野が広がることを実感しています。今後も基礎研究と臨床現場を繋ぎながら、肺移植の成功率向上や合併症対策に役立つ成果を目指していきたいと思います。最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えてくださった新谷教授をはじめとする医局の先生方に深く感謝申し上げます。