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呼吸器外科の診療



大阪大学呼吸器外科における臨床の特徴

(1)胸腔鏡下低侵襲手術

当科では、早期肺癌、転移性肺腫瘍、重症筋無力症、縦隔腫瘍を対象に、胸腔鏡下低侵襲手術を施行しています。また、2018年4月より保険適応となった肺癌・縦隔腫瘍に対するロボット支援手術を実施しています。

(2)拡大手術

呼吸器センター(呼吸器内科と共通病棟)で最新の集学的治療を行っています。また心臓血管外科をはじめとする他の外科領域と共同で手術を行うことが可能で、進行悪性腫瘍に対して積極的に切除を行っています。

(3)肺移植

当科は肺移植実施施設であり、これまで(平成30年6月)に計63例(脳死肺移植49例と生体肺葉移植11例、心肺同時移植3例)の実績があります。

(4)最新の術前術後管

呼吸器センターにおいて、呼吸器内科、理学療法士、薬剤師、看護師とのチーム医療を実現し、最新の医療機器を用いた術前術後管理を行っています。

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肺癌、転移性肺腫瘍

毎週開催される呼吸器内科・放射線科胸部グループとの合同カンファレンスで診断・治療方針を決定します。画像診断・手術・抗癌剤治療・放射線治療のエキスパートが検討することにより、個々の患者に最適の医療を提供します。

≪肺癌診療≫

日本では年間に約37万人が癌で死亡していますが、その中で最も多いのが肺がんで、7万人以上が肺癌で死亡しており未だに増加しています。他の癌と同様に、禁煙など生活習慣の改善が予防につながります。また、肺癌は特異的な症状がでにくいため、早期発見が困難ながんの一つで、肺がん検診を受けることも大変重要です。
 顕微鏡で見た癌の組織の特徴から、非小細胞癌、小細胞癌と大きく2つに区別して治療を行います。非小細胞肺癌はさらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌などに分けることができます。肺癌の約60%を占めるのが腺がんで、次に扁平上皮癌が多くみられます。大細胞癌や小細胞癌は比較的発症頻度の低いがんです。
 腺癌は、肺の奥の方に発生することがほとんどで、初期には症状が出にくい癌です。とくに腺癌では、病気の原因となるような遺伝子異常が知られています。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子がその代表ですが、これらの遺伝子変異はご両親からいただいたものではないし、お子さんに受け継がれるものではありません。癌細胞だけに見られる異常です。これらの遺伝子変異によって、治療法を決定するようになってきました。
一方、扁平上皮癌は、皮膚の表面のように角質を作る性質を持った癌です。肺の中枢部に発生することが多く、痰の中に癌細胞がみられることがあります。ほとんどが喫煙者で、喫煙歴の低下によって減少傾向です。
 非小細胞癌で、早く見つかり手術をすれば完治が期待できます。最近では体への負担が軽い胸腔鏡(カメラ)による手術も広く行われています。一方、内科的な治療も飛躍的に進歩し、患者さんごとに効果的な治療法を選択できる時代になりました。抗癌剤や分子標的薬による治療、放射線療法に加え、免疫療法が新たな治療法として注目されています。
 肺癌の進行度合いの評価にはTNM分類と呼ばれる病期分類(ステージ)を使用します。これは、「癌の大きさと浸潤」を示すT因子、「リンパ節転移」を示すN因子、「遠隔転移」を示すM因子の3つの因子について評価するもので、これらを組み合わせて癌の進行度合い(ステージ)を決定します。ステージはT〜W期に分類され、患者さんの状態をふまえて治療法が選択されます。非小細胞癌のT〜U期であれば手術が主な治療法として選択されます。手術後の病期(術後病期といいます)に応じて、抗癌剤による薬物療法がすすめられます。また、VA期やVB期になると抗癌剤による薬物療法と放射線療法が、W期の患者さんでは薬物療法が標準的治療法として勧められています。

非小細胞肺がんの治療法の選択

≪術前併存症の管理≫

当科は、大学病院という性質上、多くの術前併存症を持つ患者さんの肺癌手術を行っています。当科の2007−2014年の8年間の肺癌の手術は、694人に対して行われました。この内、術前併存症は多い順に高血圧220人(32%)、他癌の既往187人(27%)、COPD163人(23%)、糖尿病111人(16%)、慢性腎疾患58人(8%)、動脈硬化性疾患(大動脈瘤・閉鎖性血管硬化症・頸動脈狭窄)57人(8%)、間質性肺炎(画像上疑うものを含む)47人(7%)、冠動脈疾患46人(7%)、脳血管障害43人(6%)、肝疾患36人(5%)、心不全の既往18人(3%)、大動脈弁疾患17人(2%)、僧帽弁疾患12人(2%)、ステロイド・免疫抑制剤投与11人(2%)でした。当院ではこの様な併存症を持った患者さんの治療経験が豊富であり、各科と連携して、大学病院として最新の医療を提供することができます。

≪胸腔鏡下低侵襲手術≫

当科では、I期肺癌(リンパ節転移がない肺癌)や転移性肺腫瘍を対象に、胸腔鏡下低侵襲手術を施行しています。手術室に、高解像度モニターと”high-vision”内視鏡システム、さらに外科手術用3D内視鏡システムが導入されており、熟練した麻酔科医による左右分離換気下に行う完全胸腔鏡下肺切除術を第一選択とし、肺葉切除・肺区域切除・肺楔状切除を施行しています。リンパ節郭清も鏡視下の拡大された良好な視野で確実に行います。癌に対する肺葉切除・肺区域切除のうち、完全胸腔鏡下肺切除術は約80%です。皮膚切開は、前方腋窩に3-4cm、中腋窩線に1cm、肩甲骨下縁に1-2cmの3か所で、金属製開胸器を使用しないことで、従来の手術に比べ術後疼痛の軽減と早期離床に成功しました。また肺癌に対して、症例に応じて、より低侵襲ロボット支援手術(→ロボット手術の詳細はこちら)を行っています。

胸腔鏡手術
高解像度モニター、実際の手術創

近年、CT検診の普及やCT解像度の向上で早期肺癌の発見例が増えています。肺癌に対する標準術式は肺葉切除+縦隔リンパ節郭清ですが、当科では画像診断を中心とした臨床病理学的因子を十分に評価した上で、根治性を担保した肺機能温存を目的とした肺区域切除といった縮小手術を積極的に行っています。肺は再生しない臓器ですので、できるだけ少なく肺を切除する術式の個別化を進めています。

肺がんにおける肺切除の術式

≪進行肺癌に対する拡大手術≫

大血管合併切除を行う手術の模式図肺門部肺癌や局所進行癌に対しては、癌の根治性を重視し開胸手術を行います。肺癌の治療は、切除により根治できる一部の早期癌を除き集学的治療multimodality therapyが原則ですので、抗癌剤治療・放射線治療を組み合わせて治療を行います。当院呼吸器センター(→呼吸器センターの詳細はこちら)において、呼吸器内科と共通病棟で診療を行っており、このような集学的治療をスムーズに行うことができます。また、心臓血管外科をはじめとする大阪大学外科学講座内(→外科学講座HPはこちら)での連携によって、一般病院では切除が困難な肺癌の切除を積極的に行っています。

肺がんにおける肺切除の術式 進行肺癌に対する新たな大動脈合併切除方法を図式化
(Shintani et al. Ann Thorac Surg. 2018 より引用)

≪肺癌に対する当科の成績≫

当科の2007−2014年の8年間の肺癌手術694人の5年全生存率で見た治療成績を表に示します。上述の通り併存症を持った患者さんに対して、良好な成績を示しています。(表の病理病期は肺癌取り扱い規約第7版に基づく)

平成26年度の肺癌手術の術式別の内訳 当科の2007−2014年に実施した肺癌手術694人の5年全生存率

≪肺癌の最新治療の開発をめざして≫

当科を中心として、非小細胞肺がん完全切除に対する周術期心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)投与の多施設共同無作為化比較試験(JANP study)を先進医療として実施しました。本研究は、ANPによる血管保護作用による癌転移・術後再発抑制効果を肺癌手術に応用したものであり、全国335症例の肺癌症例を対象とした臨床研究であり、2015年9月1日より、症例登録を開始し、2017年7月に症例登録を終了しました(→JANP studyの詳細はこちら)。

≪転移性肺腫瘍に対する肺切除術≫

転移性肺腫瘍には様々な原発腫瘍がありますが、他臓器に転移がないか、あるいは制御可能であることを確認し、肺機能と生活の質QOL(Quality of Life)の温存に注意しつつ、切除適応と術式の決定を行っています。近年、分子標的薬の開発や癌薬物療法の進歩に伴い、転移性肺腫瘍の切除という遠隔転移に対する局所療法の意義が再認識されてきています。当院では転移性肺腫瘍に対し豊富な治療経験を持ち、安定した手術成績を示しています。

平成26年度の肺癌手術の術式別の内訳

最も症例数の多い大腸癌の肺転移の治療成績(2003-2014年の68人)は、5年無再発生存率37.5%、5年全生存率73.1%であり、良好な成績を示しています。

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縦隔腫瘍

当院ではこれまでに国内で最も多くの胸腺腫瘍手術を行ってきました。教室として胸腺腫に関する系統的な基礎研究の成果を臨床応用し、多くの論文・学会報告をして参りました。1981年に教室の正岡昭がCancerに発表した「胸腺腫の正岡分類」は、30年を経た現在も臨床病期分類として国際標準です。

正岡病期分類

胸腺腫は癌に比べて低悪性度であり、胸膜播種再発に対して積極的に切除を行うことにより長期生存が得られることもあります。手術のみならず、化学療法や放射線治療も含めて可能な限りの治療を行います。進行胸腺癌に対しては、術前に放射線化学療法を行った上で拡大手術を行っています。心臓血管外科との連携により、心大血管を合併切除することで、完全切除をめざします。
 胸腺腫に対する手術でも完全胸腔鏡下摘出術を第一選択としています。しかし、腫瘍径が5cmを超える大きい腫瘍や、周囲臓器への浸潤が疑われる症例では、根治性と安全性を担保するために開胸摘出術(おもに正中切開)を躊躇しません。良性縦隔腫瘍(奇形腫、胸腺嚢胞、気管支嚢胞、神経原生腫瘍など)に対しても完全胸腔鏡下摘出術を第一選択とし低侵襲手術を遂行します。縦隔腫瘍に対する胸腔鏡下摘出術では、二酸化炭素CO2を胸の中に送気することで人工気胸下に視野を得てポート(孔)を作成し、腫瘍摘出術または胸腺胸腺腫瘍摘出術を施行しています。CO2を用いることで、より小さな傷で低侵襲に手術を実施することができます。

胸骨吊り上げ法による胸腔鏡下胸腺腫瘍摘出術

また、縦隔腫瘍に対して、症例に応じて、より低侵襲なロボット支援手術(→ロボット手術の詳細はこちら)を行っています。

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重症筋無力症

重症筋無力症は神経筋伝達物質であるアセチルコリンの受容体に対する自己抗体が作られることにより発症する自己免疫疾患です。本疾患の治療法のひとつに胸腺摘出術があります。胸腺腫の合併、60歳以下で全身症状を伴う、症状は軽度であるが抗アセチルコリン抗体陽性などはよい手術適応となります。教室の正岡昭は1981年に胸腺周囲脂肪組織も含めて広範に胸腺を摘除する「拡大胸腺摘出術」を提唱し、現在の標準術式となっています。胸腺摘出術の効果は術後3か月〜1年以上をかけて徐々に出てきます。
 近年は、より低侵襲で、美容面を配慮した胸腔鏡下拡大胸腺摘出術を行っています。重症筋無力症の治療効果を十分得るためには胸腺周囲組織も含めた拡大胸腺摘出が必要で、当科では両側胸腔鏡アプローチを採用しています。従来の胸骨正中切開に比べて、美容上のメリットだけでなく術後のクリーゼの発症もなく、呼吸管理などの点でも優れていると考えています。

胸腔鏡アプローチによる拡大胸腺摘出術、ロボット支援手術

現在ではCO2を胸の中に送気することで人工気胸下に視野を得て、両側にポート(孔)を作成し拡大胸腺摘出術を施行しています。CO2を用いることで、より小さな傷で低侵襲に手術を実施することができます。また、当科では重症筋無力症に対するロボット支援下拡大胸腺摘出術を実施してきましたが、現在保険適応ではないために自費診療で実施しています。

胸腔鏡アプローチによる拡大胸腺摘出術、ロボット支援手術

重症筋無力症に対する両側アプローチ:胸の両側にポート(孔)を作成し手術を行います。孔の大きさは5mm〜12mmです。

手術成績は1年後に症状が消失する割合が40%、症状が改善する割合が40%で、合計すると約80%以上に手術の効果が認められています。しかし、約10%の症例で胸腺摘出術が奏効しない難治性症例が存在し、その場合にはサイクロスポリンやプログラフによる免疫抑制療法を行っており、良好な結果を得ています。また、当科では、これまでの多くの経験を生かし、神経内科と共同で、新たな治験薬の臨床治験を積極的に取り入れています。

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ロボット支援手術

手術支援ロボットのひとつであるダヴィンチ「da Vinci Surgical System(Intuitive Surgical, inc.)」は、術者が操るサージョンコンソール、実際に手術を行うペイシャントカート、画像処理機を有するビジョンカートの3つから構成されています。サージョンコンソールでは、執刀医が3次元画像を見ながら、左右2本のマスターとフットスイッチを操作することにより遠隔手術を行ないます。ペイシャントカートはエンドリストという7自由度をもつ、直径8mmの特殊な鉗子で、執刀医からの指示を受けて実際に手術を行ないます。術者の手の動きと鉗子の動きを2:1、3:1、5:1に調整することのできるスケーリング機能や、術者の手の震えを除去するフィルター機能もあることが特徴です。1〜2cmの小さな創より内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、高度な内視鏡手術を可能にします。ロボットが手術をするのではなく、術者がロボットを操り、きめ細かな手術を行うということになります。
 実際に、鉗子を体内に挿入したところを、テレビで確認している図です。関節をもつ鉗子を、術者がサージョンコンソールからロボットを操ることで、手術操作を行っていきます。

胸腔鏡アプローチによる拡大胸腺摘出術、ロボット支援手術
da Vinci Xi サージカルシステム
胸腔鏡アプローチによる拡大胸腺摘出術、ロボット支援手術
da Vinci 用手術室
胸腔鏡アプローチによる拡大胸腺摘出術、ロボット支援手術
da Vinci Xiサージカルシステムの手術

2018年度診療報酬改定で保険適用されることになった呼吸器領域のロボット支援下内視鏡手術は、以下の3つです。

胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術
胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術
胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除又は1肺葉を超えるもの)

≪縦隔腫瘍に対するロボット支援手術≫

縦隔腫瘍はロボット支援手術のよい適応です。特に胸腺腫を代表とした前縦隔腫瘍はアプローチの難しい部位に存在しているため、通常の胸腔鏡手術よりもロボット支援手術の方が容易に手術可能な場合もあります。
大阪大学呼吸器外科では、縦隔腫瘍を対象としたロボット支援手術を含む胸腔鏡下手術の経験が豊富であり、縦隔腫瘍に対するロボット支援手術を保険診療で行う施設の要件を満たしていることから、2018年4月より縦隔悪性腫瘍または縦隔良性腫瘍に対するロボット支援手術を開始いたしました。
 手術は、全身麻酔にて、仰臥位または半側臥位で、片側(病変の位置や切除量によっては両側)の胸壁からアプローチします(左図)。通常4か所の孔から、ポートと呼ばれる器具を挿入し、ロボットのカメラやアームを挿入します。二酸化炭素CO2を胸腔へ送気して、肺や周囲臓器を適度に圧排することで、良好な術野を展開します。患者さんの横には助手の外科医が孔から、体内の操作をサポートします。術者は、患者さんから離れた位置で、サージョンコンソールを通して、ロボットを操作します。腫瘍が切除されれば、袋に入れて体外へ摘出します。その際に腫瘍の大きさに応じて、創を大きくすることがあります。

≪肺癌に対するロボット支援手術≫

阪大学呼吸器外科では、主に臨床病期I期の肺がんの切除は胸腔鏡で行っています。したがって、同様の病期の肺がんの患者さんはロボット支援手術のよい適応と考えています。大阪大学呼吸器外科では2018年12月より肺がんに対するロボット支援手術が保険診療で可能になりました。
 手術は、全身麻酔にて、側臥位で、片側の胸壁からアプローチします。通常4〜5か所の孔から、ポートを挿入し、ロボットのカメラやアームを挿入します。二酸化炭素を胸腔へ送気して術野を展開します。患者さんの横には助手の外科医が孔から体内の操作をサポートしています。縦隔腫瘍手術と同様に、術者は患者さんから離れた位置で、ロボットを操作します。腫瘍が切除されれば、袋に入れて体外へ摘出します。関節をもつ鉗子の精細な動きによって、血管剥離やリンパ節郭清において、ロボット支援のメリットが大きいと言われています。

≪予想される利益と不利益≫

本試験により、これまで内視鏡手術で行われていた手術の難度が低くなることにより、より安全に手術を行えるようになることが予想されます。さらに、手術支援ロボットはより複雑で細やかな手術手技が可能であり、また外科医へのストレスは少なく、3次元による正確な画像情報を取得できるため、より侵襲の少ない手術を患者さんに提供できます。以上から、より早い術後の回復(経口摂取、離床、ドレーン抜去)が可能で、術後疼痛の軽減、美容上の美しさ、入院期間の短縮が期待できます。
 本術式によって予期される主な有害反応(手術に関連する出血、術後肺炎、無気肺、呼吸不全、遷延性肺瘻、皮下気腫、乳び胸、気管支断端瘻、吻合部狭窄、縫合不全、膿胸、創感染、神経麻痺、誤嚥、嗄声、血栓症、下肢深部静脈塞栓症、肺梗塞、アレルギー反応など)は、ほとんどのものはロボット支援手術特有のものではなく、内視鏡手術または従来の開胸手術に準ずるものです。
 ロボット支援手術に特有のものとして、ロボット動作の不具合で内視鏡手術または従来の開胸手術に変更しなければならないことが稀にあるとされています。手術中に上記の有害事象が発生した場合には、通常の手技に切り替え、従来の内視鏡下または開胸手術に移行して手術を行います。

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肺移植

肺移植は重症呼吸不全や肺高血圧症で他に有効な治療手段がなく生命の危険が迫っている患者さんに適応される治療法です。適応疾患は、肺高血圧症、肺線維症、肺気腫、気管支拡張症、肺リンパ脈管筋腫症、閉塞性細気管支炎などです。精密検査により肺移植適応評価を行い、院内および近畿肺移植検討会で審査し、さらに中央肺移植適応検討委員会で審査され、適応と判定された後に日本臓器移植ネットワークへ登録し移植待機となります。肺移植は手術関連死亡が10%程度の非常にリスクの高い治療ですが、順調な経過であれば日常生活や社会復帰が可能となります。本邦の脳死肺移植後の5年生存率は72.1%です(日本肺および心肺移植研究会Regstry Report 2015より)。
 現在は国内10施設で肺移植が行われていますが、当科は臓器移植法施行後、1例目の脳死肺移植を実施してから現在までに(平成30年6月)に計60例(脳死肺移植49例と生体肺葉移植11例の実績があります。当科では、心臓血管外科との強い連携で、心疾患を合併する両肺移植を積極的に行っていることを特徴とし、他の肺移植実施施設からも、ご紹介を受けております。また当科は国内3施設しかない心肺同時移植施設で、これまでに3例の心肺同時移植を行いました。
 移植適応評価から移植手術までは、呼吸器センター(呼吸器内科、呼吸器外科、呼吸器リハビリチーム)で診療にあたります。移植手術後は、集中治療部・ICUと呼吸器センターが連携し、綿密な術後管理、リハビリテーションプログラムなどを通じて、術後早期回復をめざし退院まで包括的に移植患者さんの治療に当たっています。2010年7月の臓器移植法の改正により、家族の同意により脳死下臓器提供が可能になりました。これに伴い、国内の脳死肺移植手術数が増加しつつあります。

本邦1例目脳死肺移植
肺移植に関する相談は、
大阪大学医学部附属病院移植医療部までご連絡ください。

ホームページ:http://www.osaka-transplant.com/
TEL:06-6879-5053
E-mail:lung-tx@surg1.med.osaka-u.ac.jp

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悪性胸膜中皮腫

肺などの臓器や胸壁の内側は、胸膜と呼ばれる膜に包まれています。この薄い膜には中皮(ちゅうひ)細胞が並んでいます。中皮細胞から発生する悪性腫瘍を悪性胸膜中皮腫と呼びます。この病気はほとんどがアスベスト(石綿)を吸ったことにより発生します。仕事でアスベスト吸入した方だけでなく、アスベスト関連の工場周辺の住民にも発生しています。アスベストを吸ってから中皮腫が発生するまでの期間はとても長く、数十年が経ってから発生します。
 悪性胸膜中皮腫では、進行具合によって治療方針を決めます。手術で完全に取りきれる場合には手術を選択します。片肺を含めて片方の胸の中の胸膜をすべて切除する手術や、肺を残しながら胸膜をすべて切除する手術が行われていますが、大きな手術であるため、年齢や健康状態などによっては手術に耐えられない場合があります。当院は、胸膜をすべて切除する胸膜切除/肺剥皮術(pleurectomy/decortication:P/D)の実施可能施設に認定されています。その他、抗癌剤や放射線療法を選択しますが効果は十分とは言えず、悪性胸膜中皮腫の予後は非常に厳しいのが現状です。

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気胸

自然気胸は若年男性に多く、肺嚢胞が破裂し発症します。安静や胸腔ドレナージで治療されますが、再発率が非常に高く、CTで肺嚢胞が確認されれば胸腔鏡下肺嚢胞切除術の適応となります。小さな肺嚢胞では切除せずに、縫い縮めたり(縫縮)やレーザーによる焼灼処置で対応することもあります。いずれにしても、高解像度モニターと”high-vision”内視鏡システムを用いて、5mm−1cmの小さな創2-3か所で安全に手術が可能です。胸腔鏡手術後の再発率は3%です。
 一方、広い範囲に肺嚢胞が認める場合や高度な肺気腫のある高齢者の気胸は難治性であり、手術リスクが高く、手術適応は慎重を期す必要があります。手術でも嚢胞切除ではなく、嚢胞部分や破裂した部分を中心に特殊なシートを貼付し破裂した胸膜を補強し修復する場合もあります。また手術ではなく、胸膜癒着療法の適応になることもあります。

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感染症

外科の対象となるのは、結核、非定型抗酸菌症、真菌症などで、抗菌薬治療で対処困難な難治性の慢性感染症になります。結核は当院での治療は行えませんので、疑われた場合や診断された場合には、適切に関連施設へ転院の上、治療を行っています。病態としては、肺に感染症が起こる肺炎、炎症性腫瘤、肺膿瘍、胸腔内に感染が起こる膿胸などがあります。また、高齢者をはじめとして、糖尿病や肝臓病、ステロイド投与や抗癌剤治療によって、手術後に組織修復が不良になり、気管支や肺の傷が治らずに感染を起こすことがあり、外科的治療の適応になります。
 治療法は、肺切除に加え、膿を外に出すために管を入れるドレナージが行われます。場合によっては、膿の排出をよくするために、全身麻酔下に胸腔鏡で感染部位を確認します。感染した膜や隔壁を除去し、良好にドレナージが行えるように工夫しており、早期治癒をめざします。さらに、慢性的な膿胸になり、感染が制御できない場合には、膿胸腔を開放し浄化を待つ開窓術を行っています。開窓術後は、ガーゼ交換を毎日行い、腔内の浄化を待ち、その後胸壁の筋肉を腔に充填することで腔を閉鎖します。肋骨を切除し、胸郭自体の形を変えて、腔を閉鎖することもあります。
 最近では、腔を縮小させるために、陰圧補助閉鎖治療システム(V.A.C. 、Vacuum Assisted Closure)を用いた、膿胸治療を行っております。V.A.Cは慢性、難治性の創傷の治療に用いられる技術であり、患部環境を被覆し管理された負圧を掛けることによって、慢性の局所創傷の治療を促進させるため、腔の早期の縮小を期待できます。

実際に行っている陰圧補助閉鎖治療システム(V.A.C.)療法
実際に行っている陰圧補助閉鎖治療システム(V.A.C.)療法

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最新の術前術後管理

≪最新の胸腔ドレナージシステム≫

肺の術後には、肺の切離断端から空気が漏れるため、持続的に胸腔内から空気を吸い出す必要があります。手術の最後に胸の中にチューブを留置し、持続吸引器につないで、持続吸引器に接続します。当院では、デジタルモニターにより空気漏を定量化できる小型ポータブル持続吸引器(トパーズ®)を日本で初めて導入し、現在では標準で使用しています(病棟に10台常備)。従来の吸引器より軽量であり、術後の離床が促進され、術後合併症を減らすことができます。また、同時に入院期間の短縮につながります。

トパーズ®を装着した状態・左がトパーズ® 右が従来から使用している持続吸引器

≪周術期呼吸器リハビリテーション≫

阪大病院呼吸器センターでは、医師、看護師、理学療法士、作業療法士から構成される、専属の呼吸器リハビリテーションチームを設置しており、合併症軽減と早期退院を目的とした、周術期呼吸器リハビリテーションを積極的に行っております。術前は患者さんの呼吸機能、運動能力を把握し、患者さん一人一人に適切な呼吸法や排痰法を指導しています。術後に酸素吸入が遷延したり、ADL低下患者さんに対しても、できる限り術前と同じ状態で退院していただけるよう、呼吸器リハビリを取り入れています。
 肺移植登録患者さんに対しては、移植待機中に可及的に体力・筋力を落とさないような運動法、呼吸負荷を軽減するような生活動作法などの指導を行い、術前から移植後早期回復を視野に入れた、呼吸器リハビリを行っております。術後は当院独自のリハビリテーション進行表に基づき、患者さんそれぞれの心肺・身体機能に応じた個別プログラムを作成し、退院後の生活を視野にいれた早期退院へ向けたリハビリを行っています。
 また、院内だけの活動ではなく、阪大病院呼吸器センター主催の医療従事者向けの呼吸器リハビリテーション講習会も行っており、地域の医療施設に向けた情報発信も積極的に行っております。

呼吸器センターでのリハビリテーションの様子・北大阪呼吸リハビリテーション講習会

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その他

≪胸腔鏡下生検術≫

主病巣が肺癌や縦隔腫瘍のように胸腔内に限局しておらず、全身疾患でも胸腔内に病変を認めることがあります。そのような場合、血液検査や、画像検査などの負担の少ない検査で診断がつかないことがあり、確定診断目的に手術により、病変の一部を採取する必要があることがあります。手術は全身麻酔下にて胸腔鏡を用いた創部の小さい負担の少ない手術を行うことが多いですが、症例によっては通常の開胸手術にて診断することもあります。

≪気管ステント・気道異物除去≫

悪性腫瘍や感染、炎症、または気道異物などにより気道(気管・気管支)が狭窄し呼吸困難を来すような緊急対応を要する病態に対して、内腔を保持するために様々な材質の筒(ステント)を挿入して空気の通り道を確保する方法です。硬性鏡と呼ばれる特殊な器具を気管に挿入し(図)、麻酔科医師による適切な呼吸管理下に手術を行います。気道異物は長い鉗子を用いて異物を摘出し、気道を狭くする腫瘍があればレーザーで焼灼し除去した上で、細長い風船のようなもので(バルーン)で拡張し、ステントと呼ばれるパイプのようなものを挿入し狭窄を解除します。ステント挿入後は速やかに呼吸困難が改善します。
 但し、特殊な治療法であるため症例の寄っては保険適用外で、自費診療になることもあります。

術前・ステント挿入後

また、当科では、硬性気管支鏡による気道拡張術も積極的に行っています。全身麻酔下に太い筒を気道に挿入して、様々な器具を用いて気道内の処置(手術)が可能であり、ほとんどの場合緊急的に行います。

硬性鏡を用いたステント留置

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