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  肺移植

肺移植は重症呼吸不全や肺高血圧症で他に有効な治療手段がなく生命の危険が迫っている患者さんに適応されます。薬物治療などの内科的治療によってもその進行が抑えられず予後が限定される場合に、患 者(レシピエント)の肺を提供者(ドナー)から提供された肺と置き換える医療です。
精密検査により肺移植適応評価を行い、院内および近畿肺移植検討会で審査し、さらに中央肺移植適応検討委員会で審査され、適応と判定された後に日本臓器移植ネットワークへ登録し移植待機となります。肺移植は手術関連死亡が10%程度の非常にリスクの高い治療であり、手術に際しては多くの外科医によるチームで手術が行われます(図1)。順調な経過であれば提供いただいた肺がレシピエントの体内で生着し(図2)、日常生活や社会復帰が可能となります。本邦の脳死肺移植後の5年生存率は71.9%であり、世界と比較して良好な成績を得ています(日本肺および心肺移植研究会Registry Report 2019より)。

手術室の風景
図1 手術室の風景
移植前後の写真
図2 移植前後の写真
肺移植には、脳死肺移植と生体肺移植の2種類があります。脳死状態のドナーから肺を提供していただき、レシピエントに移植することを脳死肺移植といいます。一人のドナーから両方の肺を提供いただき移植することを両肺移植、片方の肺を提供いただき移植することを片肺移植といいます(図3)。どちらの術式を選択するかは、レシピエントの疾患や提供いただく肺の状態によって、肺移植チームが判断します。
脳死肺移植(両肺移植と片肺移植)
図3 脳死肺移植(両肺移植と片肺移植)
 現在は国内9施設で肺移植が行われていますが、当科は臓器移植法施行後、1例目の脳死肺移植を実施してから現在までに(平成31年3月)に計62例(脳死肺移植51例と生体肺葉移植11例)の実績があります(図4)。2010年7月の臓器移植法の改正により、家族の同意により脳死下臓器提供が可能になりました。これに伴い、国内の脳死肺移植手術数が増加しつつあります(図5)。
当科における肺移植実施数
図4 当科における肺移植実施数
本邦における肺移植実施症例数
図5 本邦における肺移植実施症例数
当院肺移植グループには、主に大阪府下の大学病院や呼吸器センター病院から、症例のご紹介をいただいております。国内における脳死肺移植症例数が増加するとともに、当科への紹介数も徐々に増加傾向です(図6)。また当科では心臓血管外科との強い連携で、心疾患を合併する両肺移植を積極的に行っていることを特徴とし、他の肺移植実施施設からもご紹介を受けております。小児科と連携することで18歳未満の小児肺移植にも対応しており、2018年には国内で2例目の6歳未満の脳死肺移植を行いました。また当科は国内3施設しかない心肺同時移植施設で、これまでに3例の心肺同時移植を行いました。
過去10年における当院肺移植グループへの紹介数
図6 過去10年における当院肺移植グループへの紹介数
 移植適応評価から移植手術までは、呼吸器センター(呼吸器内科、呼吸器外科、呼吸器リハビリチーム)で診療にあたります。移植手術後は、集中治療部・ICUと呼吸器センターが連携し、綿密な術後管理を行います。状態が安定してからは呼吸器リハビリチームによるリハビリプログラムを通じて、術後早期回復をめざし退院まで包括的に移植患者さんの治療に当たっています(図7)。退院後は紹介元の病院と綿密に連携をとりつつ、当科にも定期的に外来通院をしていただきます。
リハビリ室の風景 リハビリ室の風景2
図7 リハビリ室の風景

肺移植治療の対象となるレシピエントは、下記の条件を満たす方です。
 1. 治療に反応しない慢性進行性肺疾患で、肺移植以外に患者の生命を救う有効な治療手段が他にない
 2. 移植医療を行わなければ、残存余命が限定されると臨床医学的に判断される
 3. レシピエントの年齢が、原則として、両肺移植の場合55才未満、片肺移植の場合には60歳未満である
 4. レシピエントが精神的に安定しており、移植医療の必要性を認識し、これに対して積極的態度を示すとともに、家族および患者を取り巻く環境に充分な協力体制が期待できる
 5. レシピエントが移植手術後の定期的検査と、それに基づく免疫抑制療法の必要性を理解でき、心理学的・身体的に充分耐えられる


肺移植が必要と考えられるレシピエントでも、肺移植による救命が難しい場合があります。下記のような問題がある場合には、肺移植の適応から除外します。
 1. 肺外に活動性の感染巣が存在する
 2. 他の重要臓器に進行した不可逆的障害が存在する(悪性腫瘍、骨髄疾患、冠動脈疾患、高度胸郭変形症、筋・神経疾患、肝疾患(T-Bil>2.5mg/dL)、腎疾患(Cr>1.5mg/dL、Ccr<50mL/min))
 3. きわめて悪化した栄養状態
 4. 最近まで喫煙していた症例
 5. 極端な肥満
 6. リハビリテーションが行えない、またはその能力が期待できない症例
 7. 精神社会生活上に重要な障害の存在
 8. アルコールを含む薬物依存症の存在
 9. 本人および家族の理解と協力が得られない
 10. 有効な治療法のない各種出血性疾患及び凝固異常
 11. 胸膜に広範な癒着や瘢痕の存在
 12. HIV (human immunodeficiency virus)抗体陽性

肺移植の対象となる具体的な呼吸器疾患は以下の通りです。
 1. 肺高血圧症(肺動脈性肺高血圧症、アイゼンメンジャー症候群など)
 2. 特発性間質性肺炎
 3. その他の間質性肺炎(膠原病や薬剤が原因のものなど)
 4. 肺気腫
 5. 造血幹細胞移植後肺障害
 6. 肺移植合併症(気管支吻合部狭窄など)
 7. 肺移植後移植片慢性機能不全(CLAD)
 8. その他の呼吸器疾患
  8.1 気管支拡張症
  8.2 閉塞性細気管支炎
  8.3 じん肺
  8.4 ランゲルハンス細胞組織球症
  8.5 びまん性汎細気管支炎
  8.6 サルコイドーシス
  8.7 リンパ脈管筋腫症
  8.8 嚢胞性線維症 
 9. 上記に該当しないその他の疾患

肺移植適応決定のために必要な主な検査は以下のとおりです(病状により項目は変わります)。
 胸部X線
 胸部CT
 気管支鏡検査・経気管支肺生検
 血液ガス
 肺機能検査
 心電図
 心エコー
 肺血流スキャン・換気スキャン
 心臓カテーテル検査(右心カテーテル検査、左心カテーテル検査)
 6分間歩行テスト
 免疫学的検査・ウイルス抗体価
 喀痰培養
 血液・尿一般検査
 腎機能検査
 便潜血
 腹部エコー
 胃内視鏡検査
 他科的検査(精神科、歯科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、産婦人科など)

 検査を大阪大学病院で行うか、主治医(紹介医)のもとで行うかは患者さんの病状にもよりますので、移植コーディネーターに御確認下さい。患者さんに来院していただくのが理想的ですが、病状によっては、移植医が通院中あるいは入院中の病院へ往診することも行っております。
 移植登録してから脳死肺移植に至るまでに、ある程度の待機期間が必要なのが現状です。手遅れにならぬよう、紹介医の先生には酸素吸入が始まった段階で、早目のご相談をお願いします。呼吸機能にまだ余力がある方については当院でも外来診察を行い、移植の最適な時機を逸しないようにフォローさせていただいております。
ご病状の程度にかかわらず、どうかお気軽にご相談ください。

肺移植に関する相談は、
大阪大学医学部附属病院移植医療部までご連絡ください。
ホームページ:http://www.osaka-transplant.com/
TEL:06-6879-5053
E-mail:handaihaiisyoku@thoracic.med.osaka-u.ac.jp

日本肺および心肺移植研究会のホームページ(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/surg/shinpai/pg183.html)から、認定9施設共通の「肺移植のためのガイドブック」がダウンロードできますので、ご参照ください。




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