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先進医療B JANP study

心臓ホルモンによるがん転移抑制効果についての
多施設臨床研究(JANP(ジャンプ)スタディー)開始

−国家戦略特区における保険外併用療養の特例を活用した全国初の案件−

(1)試験の概要

大阪大学大学院医学系研究科呼吸器外科学は、奥村明之進教授を研究総括責任医師として、国立循環器病研究センター研究所の野尻崇(生化学部ペプチド創薬研究室長、大阪大学呼吸器外科学離臨床登録医)、山本晴子(先進医療・治験推進部長、理事長特任補佐)、寒川賢治(研究所長)らの研究グループとともに、非小細胞肺がん完全切除に対する周術期心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)投与の多施設共同無作為化比較試験(JANP study)を実施することになりました。
 本研究は、ANPの血管保護作用によるがん転移・術後再発抑制効果を肺がん手術に応用したものであり、全国500症例の肺がん患者さんを対象とした臨床研究であり、2015年9月1日より、症例登録が開始されます。
 ANP studyは、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部(西田幸二部長・眼科学教授)を通じて先進医療Bで申請したもので、国家戦略特区における保険外併用療養の特例を利用した先進医療Bの告示例として全国初の案件です。
 参加予定施設は、大阪大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、北海道大学病院、山形大学医学部附属病院、神戸大学医学部附属病院、国立病院機構刀根山病院、大阪府立成人病センター、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター、山形県立中央病院、国立がん研究センター東病院の全国10施設です。

(Japan Human Atrial Natriuretic Peptide for Lung Cancer Surgery)

本臨床試験は、500例の肺がん患者さんを対象とし、ANP投与群、非投与群の2群に分け、術後の肺がん再発率等について比較検討を行うものです。本試験では、エントリーされた患者さんの血液やがん病巣の検体を1か所に集積・保存し、ANPの血管保護作用の観点から、独自の解析を加える予定です。これらの解析によって、ANPのさらなる新しい作用・メカニズムを見つけていきたいと考えています。
 血管保護作用を応用したがん転移抑制効果、すなわち“抗転移薬”としての臨床試験は過去に前例がなく、世界初の試みとなります。血管保護によって、がん転移を防ぐという考え方は、肺がんに限らず、あらゆる悪性腫瘍に応用可能と考えられます。今後、様々ながん拠点病院・研究機関と連携し、血管保護によるがん転移抑制効果をあらゆる形で応用すべく、基礎研究の推進も含めて準備を進めていく予定です。

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研究の背景

ANPは1984年に寒川賢治、松尾壽之(当センター研究所名誉所長)らによって発見された心臓ホルモンであり、現在心不全に対する治療薬として臨床で使用されています。
 これまでに大阪大学呼吸器外科学および国立病院機構刀根山病院で、非小細胞肺がん手術中より3日間ANPを低用量持続投与することによって術後想定される様々な心肺合併症を予防できること、さらには術後再発率が有意に低いことを報告してきました。
 心肺合併症予防の為に投与されたANP群(手術+ANP群)を手術単独群(対照群)と比較した結果、術後2年の無再発生存率が良好な成績であったこと、さらには両群の年齢や性別、がん進行度等をマッチングさせた統計解析においても同様の結果が得られたことから、「ANPが何らかのがん転移・再発抑制効果を持つ可能性がある」と考え、基礎的見地から解明を進めたところ、ANPが血管保護作用を発揮することにより、がん細胞が血管へ接着するのを防ぎ、結果的にがん細胞の転移・再発を抑制していることが判明しました。

全症例の無再発生存率のグラフ(左)と症例マッチングを行った無再発生存率のグラフ(右)

全症例の無再発生存率のグラフ(左)と症例マッチングを行った無再発生存率のグラフ(右)

がん手術時に血中に放出される遊離がん細胞は、その多くが1〜2日間以内に細胞死をむかえ消退します。しかし手術時の炎症によって血管における接着分子(E-セレクチン)の発現が亢進し、遊離がん細胞が効率良く血管へ接着・浸潤してしまうことが、術後早期再発・転移の一因となっている可能性が推測されています。ANPは炎症によって惹起される血管のE-セレクチンの発現を抑制することにより、遊離がん細胞が血管へ接着することを防ぎ、結果的に術後再発・転移を抑制していると考えられます。

 肺癌はまだ難治性癌の一つであり、5年生存率は、病理病期1期で8割、2期で5割、3期になりますと3〜4割になります。それだけ、再発の多い癌腫になるわけです。我々外科医は癌の完全切除を目的として手術を行っておりますので、手術が終わった時点では肉眼的癌は取りきれていると考えています。しかし、癌が再発するのは、癌細胞が細胞レベルで体に残ってしまっているためと考えられます。

術前の画像診断では発見できなかった転移がすでに起こっていたり、最近では血液中を循環している癌細胞の存在が明らかになってきました(図1)。

図1

ANP投与により肺血管障害の改善

当科の基礎研究から、炎症が癌細胞の悪性化に関与していて、炎症のために放出される様々な因子によって癌細胞が転移を起こしやすい状態になること、また切除肺の肺内血液内には癌細胞が存在し、このような遊離癌細胞が検出された場合、術後再発率が有意に高いことを報告して参りました。ANPは、抗炎症効果、また遊離癌細胞の生着を抑えることで、術後再発を抑制できる可能性があると考えています(図2)。

図2

ANPは何故3日間投与でがん転移を抑制したのか?

癌の転移のすべてが、手術中または直後、つまり周術期に起こるわけではありませんが、我々のデータからは、残念ながら手術によって癌を遊離してしまう事例が少なからずあると考えられます。

 本研究は、ANPの投与により、どのくらいの症例で再発を抑えることができるかを検証するものであり、抗転移薬といった新しい治療法を開発・提唱するものと考えています。

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試験参加を希望される患者さまへ

≪研究参加の条件≫

この臨床研究では、以下の条件に当てはまる患者さんにご協力をお願いしています。

この臨床研究の対象となる方は、 以下のすべてにあてはまる方です。

  • 1非小細胞性肺癌が疑われる方
  • 2画像診断から浸潤癌が疑われる方
  • 3外科手術で完全切除が可能と判断される方
  • 4ND2a以上のリンパ節郭清、または選択的リンパ節郭清を実施予定の方
  • 55年以内に他の癌の治療歴がなく、5年間再発していない方
  • 620歳以上の方
  • 7Performance Status(PS)が、0〜2の方
  • 8主要臓器の機能が保たれ、登録前30日以内の血液検査の結果に異常がない方
  • 9本試験の参加についてご本人から文書による同意が得られている方

ただし、以下の1)〜11)のいずれかにあてはまる方は対象とはなりません。

  • 1活動性の重複癌がある方
  • 2妊娠中・妊娠の可能性があるまたは授乳中の女性
  • 3精神病または精神症状を合併しており試験への参加が困難と判断される方
  • 4ステロイド剤または免疫抑制剤の継続的な全身投与を受けている方
  • 5コントロール不良な活動性の感染症のある方
  • 6重篤な合併症がある方
  • 7コントロール不良な自己免疫疾患のある方
  • 8右室梗塞の既往がある方
  • 9重篤な低血圧がある方
  • 10コントロール不良の脱水症状のある方
  • 11その他、医師に本試験に参加が難しいと判断される方

この研究の参加条件(上記参照)にあてはまるか確認し、参加可能と判断されたら、参加登録手続きをおこないます。 (参加条件に当てはまらなければ参加をお断りすることがあります。)
参加登録の際に、「外科手術単独」または「hANP投与+外科手術」のどちらかの治療に50%の割合で振り分けられます。
どちらの治療法に当たるかは医師も患者さんも選べません。

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お問い合わせ先

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