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水素吸入による肺移植後虚血再灌流傷害に対する治療

肺移植患者に対する水素ガス吸入の安全性と有効性の検討

肺移植における重要課題「虚血再灌流傷害」

日本における肺移植後の5年生存率は73.6%で、世界平均の51.9%と比べて良好な治療成績ですが、他臓器移植の成績(心臓:95.3%, 腎臓:90.7%, 肝臓:79.8%)と比較すると、まだ改善の余地が残されています(図1;日本臓器移植ネットワークホームページより引用)。肺移植後の治療成績を大きく左右する病態に「虚血再灌流傷害」があります。血流が途絶えていた臓器に再度血液が流れることにより発生する活性酸素が、虚血再灌流傷害を引き起こすと考えられています。虚血再灌流傷害は、移植手術後急性期の移植肺の機能不全を引き起こすだけではなく、術後慢性期においても、移植肺の機能廃絶のリスクも増加することが知られています。しかしながら現在のところ、肺移植後の虚血再灌流傷害に対する決定的な治療法はなく、新しい治療法の開発が求められています。


研究の背景

近年水素分子は活性酸素を除去する抗酸化物質であることが証明されました。生体内に除去する酵素が存在しない強力な活性酸素を水素が選択的に除去するだけでなく(直接作用)、細胞内シグナルに働きかけて、内因性の抗酸化物質を増加させるとも言われています(間接作用)。直接作用と間接作用の両方で、水素は効果的な抗酸化作用を示すと考えられています。当科では肺移植の行程を模した動物実験モデル(ラット)で、水素ガスの吸入が移植後の肺の虚血再灌流傷害を軽減させることを証明しました。 水素分子は新たな医療ガスとして注目されており、心筋梗塞、蘇生後脳症、パーキンソン病など、虚血再灌流傷害、酸化ストレスが原因となる病気に対して、臨床試験が開始されています。
大阪大学医学部附属病院倫理委員会の承認を得て、大阪大学呼吸器外科では、大阪大学医学部附属病院集中治療部と共同で、世界に先駆けて肺移植術後患者さんに対して、水素ガスの吸入を行う臨床試験を開始しました。この研究は、水素ガス吸入が肺移植後の虚血再灌流傷害に対する新しい治療として、安全でかつ有効であることを検討することを目的にしています。

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水素ガスについて

水素ガスと酸素または空気と混合すると、爆発性を持つことが知られていますが、水素が4%以上の濃度なると起こることがわかっています。この研究では「高圧ガス保安法」に則り算出した水素濃度(1.3%)を使用していますので、爆発の危険性は全く無く、安全性は確保されています。また水素ガスは、潜水した後急激に減圧されることによって起こる潜水病(減圧症)に対する予防のために、古くから用いられてきた歴史があります。さらに「食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律」で、水素は食品添加物として掲載されており、人体への安全性は確認されています。


臨床試験の概要

大阪大学医学部附属病院集中治療部の全面協力の下、肺移植手術後、集中治療室(ICU)で呼吸状態が安定した後に1.3%の水素ガスを24時間吸入していただきます。両肺または片肺移植を受けられる患者さん(原因疾患は問いません)で、この研究を理解して同意をいただける方は、参加していただけます。

お問い合わせ先

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